2018年2月2日 東京新聞社説 http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018020202000169.html?ref=rank
受動喫煙による健康被害は防がねばならない。厚生労働省は、新たな健康増進法改正案を示した。焦点の飲食店への規制は、当初より後退した。「対策」は紫煙に巻かれかすんでしまった。
年間一万五千人。日本で受動喫煙が原因の疾患になり亡くなる人の推計数だ。子どももいる。この人数を軽く考えていないか。
改正案の焦点は、中小企業や個人で経営する小規模な飲食店の扱いだ。「喫煙」「分煙」の表示をすれば喫煙を認める。その際、二十歳未満の客や従業員は喫煙空間への立ち入りを禁止するという。
厚労省は「望まない受動喫煙をなくす」ことを目的に配慮したと説明する。店先に表示があれば吸いたくない人は避けるから目的は果たせるというわけだ。
疑問がわく。家族連れや学生客を店側が断れるのか。多忙時も従業員に喫煙空間へ立ち入らせないことができるのか。未成年者の保護に実効性を持たせる方法は乏しい。成人も含め従業員の健康被害の防止は重要な労働条件にもなりえる。労働法制の面からも周知や規制の徹底が要るのではないか。
規制範囲は、なにを小規模店とするかで大きく違ってくる。
厚労省は当初、原則屋内全面禁煙を目指した。ところが自民党議員らが反発したため、昨年三月に「面積三十平方メートル以下のバーやスナック」に限り例外的に喫煙を認める譲歩案を示した。自民党はこれにも納得せず法案がまとまらない状態になっている。
今回公表した改正案は「面積百五十平方メートル以下」を軸に調整している。自民党の意向に沿った内容だ。これだと東京都内の飲食店の九割で喫煙ができることになるとの調査もある。国際社会で広がる「屋内禁煙」原則はほごにされたも同然である。
厚労省は改正案を今国会に提出し二〇二〇年の東京五輪・パラリンピックに間に合わせることを優先させた。小規模店の例外扱いの解除時期は明確にしていない。
確かに、店の経営への配慮は要る。ただ、禁煙にしても店の売り上げや雇用などに影響は与えないとの国際調査もある。禁煙にすれば喫煙しない客が来る。禁煙の流れが強まれば、店を利用したいと考える人も増えるだろう。もっと周知し、理解を得たい。
世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会は「たばこのない五輪」を求めているが、これではおぼつかないのではないか。