政府が進める受動喫煙防止のための健康増進法改正に自民党の一部が強く反対し、改正案の今国会提出のめどが立たない。日本は2020年に東京五輪・パラリンピックを控えており、公共の場での喫煙規制は開催国の責務だ。
自民党は厚生労働省が検討している受動喫煙防止の強化策について、小規模の飲食店は「喫煙」や「分煙」を店頭に明示すれば喫煙を認めるという対案をまとめた。厚労省は自民党と改正案の内容について調整するが、難航は避けられないとみられる。
厚労省が3月に公表した改正案は、病院や学校は敷地内を全面的に、官公庁などは屋内を禁煙とし、飲食店などは喫煙室の設置は可とした上で屋内禁煙とするが、30平方メートル以下のバーやスナックなどは例外として喫煙を認める、という内容だ。自民党案では小規模の飲食店はすべて喫煙が可能になり、厚労省案から大きく後退してしまう。
厚労省が昨年10月にまとめた原案には反対が強く、バーやスナックなどの例外規定を設けた経緯がある。現在の厚労省案は世界標準の屋内全面禁煙に比べてはるかに緩やかである。それをさらに緩和したら、受動喫煙対策としての効果は薄れてしまう。
世界保健機関(WHO)は受動喫煙の防止対策として唯一、屋内全面禁煙を推奨し、分煙や喫煙室の防止効果を完全に否定している。屋内全面禁煙がかなわないとしても、厚労省の現在の改正案を軸に調整を進めるべきだろう。
20年の東京五輪が近づいていることも重要である。WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を目指す合意文書に調印しており、近年の開催国では屋内全面禁煙が実施されている。その基準に照らせば、厚労省案に基づく喫煙規制ですら、最近の五輪開催国としては前例がないほどの低レベルであるという。
飲食店業界が禁煙に反対する理由は、客が減るという心配だ。さらに、地方自治体の条例で屋外の禁煙が広がっている中で屋内も禁煙になると、たばこを吸う場所がなくなるという不満が出ている。厚労省には公共の喫煙所を増やすなど、喫煙者に配慮した対策の検討も求めたい。
今のままでは改正案の策定が行き詰まりかねない。政府も自民党も五輪を重視するなら、受動喫煙のない大会実現に最善を尽くすべきだ。