電子たばこが新型コロナウイルス感染症のリスクを大幅に高めるという、新たな研究結果が“警告”していること

配信  Wired https://news.yahoo.co.jp/articles/09f311c022f95c5f22d701b52b01fe8dc91de230

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が米国で猛威をふるい始めて以来、電子たばことCOVID-19の関連についての憶測が飛び交ってきた。この件に関して米食品医薬品局(FDA)と米国立薬物乱用研究所(NIDA)は、いずれも警告を発している。電子たばこの若いユーザーが、重度の新型コロナウイルス感染症にかかったという事例報告が出始めたのだ。それでも、電子たばことCOVID-19の関連を裏づける研究は、ごくわずかだった。

こうしたなか8月になり、青年期医学誌『Journal of Adolescent Health』に発表された論文に、電子たばこの利用とCOVID-19の感染リスクの関連を示すデータがようやく掲載された。若年者(1324歳)のうち電子たばこの愛好者は、COVID-19と診断される傾向が非利用者より5倍以上になることを、スタンフォード大学の研究者グループが明らかにしたのである。紙巻きたばこと電子たばこの併用者では、新型コロナウイルスの陽性率は7倍以上になるという。

「若者の電子たばこの愛用とCOVID-19の感染リスクには関連があるはずだとは思っていました」と、論文の共同執筆者でスタンフォード大学医学部小児科学教授のボニー・ハルパーン=フェルシャーは言う。ハルパーン=フェルシャーは若年者の喫煙について研究している。「ただ、これほどまで強い関連があるとは予想外でした」

集団ベースで実施された初の研究

喫煙によって新型コロナウイルス感染症の重症化の確率が高くなることは、すでに複数の研究で明らかになっている。しかし、若年者における電子たばこの利用とCOVID-19の関連について集団ベースで実施された研究は、今回が初めてだ。

研究者らが回答を得たかった質問には、ふたつの要素があった。ひとつは、電子たばこの利用者は非利用者よりもCOVID-19の感染検査を受ける割合が高かったか。そして検査の結果、陽性反応の出る割合が高かったかである。研究によると、どちらについても「答えは、ずばりイエスでした」と、ハルパーン=フェルシャーは言う。

研究グループはソーシャルメディアやゲームサイトのようなコミュニティでのオンライン調査によってデータを集めた。15分ほどで終了する調査で、全米50州の4000名以上の若者から回答を得ている。研究者らはその回答に、米国の母集団における人種、民族、ジェンダー、LGBTQステータス、年齢の構成を反映させた

調査は5月初めに実施され、対象者に次の項目を質問した。紙巻きたばこか電子たばこを使用したことがあるか? それは30日以内だったか? COVID-19の感染検査を受けたことがあるか? 検査結果は陽性だったか?

研究者グループは、COVID-19のその他の危険因子についても調整した。具体的には、新型コロナウイルスのホットスポットのそばに住んでいるか、肺機能に影響を与える危険因子、すなわちやせすぎか太りすぎか、ソーシャル・ディスタンシング(社会的な距離の確保)に影響を与える危険因子、すなわち社会経済的地位である。

その結果、過去30日間に紙巻きたばこと電子たばこの両方を喫煙した者は、非喫煙者に比べて新型コロナウイルスの陽性反応を示す割合が高いのみならず、感染検査を受ける割合自体が9倍高いという結論が出た。

示されたのは相関関係

もっとも、この研究は、電子たばこの利用者がCOVID-19の感染検査を受けることにした理由は調べていない。感染検査を受けた理由は、たんやせきが多い、息切れがするといった電子たばこの副作用とCOVID-19の症状の区別がつかなかったことだと考えられる。だが、高い割合で陽性の結果が出ている事実は、電子たばこの喫煙者が新型コロナウイルスそのものに感染しやすいことを示しているといえるだろう。

とはいえ、この研究は電子たばこの利用や紙巻きたばこの喫煙と、COVID-19の陽性という診断との相関関係を示しているにすぎない。本論文で著者らが説明しているように、その発見は「電子たばこの使用や、紙巻きたばこおよび電子たばこの併用が、COVID-19のこれまで明らかにされていなかった根本的に有意な危険因子であることを示す」ものである。

電子たばこのみの使用や紙巻きたばことの併用によって、新型コロナウイルス感染症にかかりやすくなるのか。かかってから重症化しやすくなる可能性があるのか。この点について、もともと本論文では生物学的な観点からの証明はされていない。

それでもハルパーン=フェルシャーは、なぜ電子たばことCOVID-19に関連があるのかについて、いくつか仮説を立てている。

喫煙者は非喫煙者よりも肺に損傷があるかもしれず、そのせいで新型コロナウイルスに感染しやすいのかもしれない。そもそも非喫煙者よりも口に手を当てている場合が多いこと、電子たばこを喫煙者間で共有することが感染の可能性を高めている可能性もある。電子たばこの喫煙者が吐き出すエアロゾルによって、新型コロナウイルスが広がっているとも考えられる。

「どれも仮説にすぎません」と、ハルパーン=フェルシャーは言う。「誰かが検証する必要があります」

喫煙によって重症化リスクが「2倍」に

喫煙がCOVID-19のリスクを高めることについては、すでに複数の研究がある。3月に呼吸器学専門誌『European Respiratory Journal』に掲載された論文によると、喫煙者や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者は、新型コロナウイルスが細胞へ侵入する際に用いるたんぱく質「ACE2」の発現量が極めて上昇していることがわかった。

続いて5月には、COVID-19のメタ分析を実施した論文が、ニコチン研究に関する医学誌『NicotineTobacco Research』に発表された。その論文を執筆したカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームは、喫煙によってCOVID-19の重症化のリスクが約2倍になることを突き止めた。

さらに7月、同校の別の研究グループによるもうひとつの論文が『Journal of Adolescent Health』に掲載された。その論文では、1825歳の若者のCOVID-19の感染リスクも、喫煙によって2倍になるという結論が出ている。

スタンフォード大学の研究結果に「まったく驚きませんでした」と、ボストン小児病院で思春期における薬物使用および依存プログラム(ASAP)のディレクターを務めるシャロン・レヴィは言う。レヴィは今回の研究にはかかわっていない。

ニコチンは免疫システムを阻害する可能性があり、電子たばこはウイルスや細菌など体外から侵入する異物を回収する肺の脂質層を傷つけ、そうした異物を除去する役割を果たすマクロファージの働きも狂わせると、レヴィは指摘する。さらにニコチンは肺から病原体を除去するのに役立つ大量の毛のような突起、すなわち線毛を減らすという。「電子たばこと肺疾患の関連について詳細が明らかになりつつあります」とレヴィは話す。肺が損傷すると感染症を防ぎにくくなるというのだ。

電子たばこと感染症全般との相関性

電子たばこの使用によって、肺が多種多様な感染症にかかりやすくなることを示す証拠が次々に示されており、こうした証拠はスタンフォード大学の研究論文が示す電子たばことCOVID-19の関連についての機械論的な説明になりうる。

「電子喫煙や電子たばこの使用が呼吸器系免疫応答を抑制する点については見解が一致しています」と、今回の研究にかかわっていないイローナ・ジャスパースは言う。小児科医兼毒物学者のジャスパースは、ノースカロライナ大学の環境医学の研究所「Center for Environmental Medicine Asthma and Lung Biology」の所長である。またジャスパースは、マウスとヒトの肺の細胞のモデルでは、電子たばこがウイルスや微生物の脅威に応答する宿主の能力を減少させることが判明しているのだと説明する。

レヴィと同じくボストン小児病院の勤務医で、20歳未満の子どもの呼吸器疾患を扱う呼吸器専門医のアリシア・ケーシーは、新型コロナウイルス以外のウイルス感染症を撃退できなかった健康な10代の若者にも同様の問題があると考えている。なお、ケーシーも今回の研究には参加していない。

「その問題は今年のインフルエンザの流行ではっきりわかりました」と、ケーシーは言う。「なぜ健康な10代の子どもたちがインフルエンザであれほど深刻な事態になったのでしょうか? インフルエンザにかかった以外は健康なスポーツ好きの高校生は、本来ならインフルエンザが重症化するはずも、慢性の呼吸器疾患になるはずもないのです」

ケーシーによると、電子たばこの喫煙は下気道の損傷を伴うという。電子たばこの喫煙者で呼吸器系に基礎的な損傷があるなら、呼吸器系の感染症をなかなか撃退できなくても無理はない。

問題が若年者で深刻な理由

さらにケーシーは、高校生の4分の1以上が電子たばこを喫煙しているという2019年の全米の調査で明らかになったデータを引き合いに出す。この事実を考えると、スタンフォード大学の論文は特に気がかりだというのだ。「多くの若者がこの問題で悩んでいるようです」。各州で学校の授業が再開して通学するようになり、友達と頻繁に顔を合わせるようになると、なおさらだ。

行動も危険因子になりうると、ボストン小児病院のレヴィは指摘する。「ニコチンを電子たばこで摂取することは、COVID-19の感染リスクを高める別の種類の指標となると思います」と、レヴィは言う。レヴィもハルパーン=フェルシャーと同じ見解で、電子たばこを使う若年者はペン型の容器を共有する可能性があることから、電子たばこの喫煙によって手から口への接触が多くなり、エアロゾルが拡散し、結果的に新型コロナウイルスの感染リスクが上昇しかねないという。

そのうえ、若者たちが電子たばこの使用に心理的な抵抗をあまり感じていないとすれば、マリファナの吸引や飲酒にも手を付けているかもしれない。結果として、マスクの着用や社会的な距離の確保といったルールの順守を忘れるかもしれない。

「ですから、若年者の電子たばこの利用はとても恐ろしいのです」と、レヴィは言う。「若者たちは自らの行動でトラブルに巻き込まれやすく、よりひどい結果になりやすいのです」

政治的な圧力も

電子たばことCOVID-19の相関関係について、正確なメカニズムはいまだに明確になっていない。それでもすでに議員たちには、行動を起こすべきであるという政治的な圧力がかかっている。

米下院の経済および消費者政策に関する小委員会の委員長ラジャ・クリシュナムルティ議員は、811日にFDAに提出した文書でスタンフォード大学の研究論文に言及したうえ、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間の電子たばこの販売禁止を求めた。クリシュナムルティは文書で、「全米における若者の電子たばこの流行が新型コロナウイルスのパンデミックと相まって、FDAの措置を要する極めて有害で健康を損なう事態を引き起こしていることは明白である」と記している。

スタンフォード大学のハルパーン=フェルシャーは、医師にも電子たばこを利用している若者にも、今回の調査結果に注意を払ってほしいと言う。「この結果が社会に対する予防のメッセージになればと願っています。十代の若者に、電子たばこの利用は自らを危険に晒すことになるのだと気づいてほしいのです」

さらに、普段から医療機関には電子たばこや紙巻きたばこの喫煙習慣について若者に尋ねてほしいと言う。その種の質問は誰がCOVID-19の感染リスクに晒されているかを判断するのに役立つはずだ。

そして、電子たばこの利用者でCOVID-19の感染検査や治療を受けた人々の数を継続的に把握できれば、電子たばこが新型コロナウイルス感染症の重症化の一因となるのかどうか、研究者が解明する上でも役立つはずだ。「わたしたちにはどうしてもデータがもっと必要なのです」と、ハルパーン=フェルシャーは言う。