2018年07月19日 06時08分 読売 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180718-OYT1T50101.html
他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙の規制強化は、世界的な流れだ。2020年東京五輪へ向けて、対策を着実に前進させたい。
受動喫煙を防ぐための改正健康増進法が参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立した。20年4月までに全面施行する。
学校や病院、行政機関は敷地内を禁煙とする。屋内は全面禁煙で、屋外の喫煙所設置は認める。飲食店やオフィスは屋内禁煙が原則だが、喫煙専用室を設置できる。
喫煙可能部分には、従業員を含む20歳未満の立ち入りを禁じる。度重なる違反には罰則を科す。
現行の受動喫煙対策は、努力義務にとどまる。罰則付きの防止策を導入する意義は大きい。
飲食店のうち、客席面積100平方メートル以下で個人経営の既存店などは当面、表示すれば喫煙可とした。厚生労働省は当初、店舗面積30平方メートル以下のバーなどに限る案を示したが、小規模店の経営に配慮して、範囲を拡大した。
この結果、禁煙になる飲食店は45%程度になる見通しだ。
受動喫煙による健康被害は、各種の調査研究で明らかになっている。世界保健機関(WHO)は、屋内全面禁煙だけが有効な対策だとして、喫煙室設置にも否定的だ。飲食店やバーを含めて屋内禁煙を義務化したのは55か国に上る。
国際標準から見れば、改正法の内容は見劣りする。飲食業界は禁煙による客離れを懸念するが、親子連れなど新たな客層の来店が増えた例もある。健康被害防止への理解を広めつつ、段階的に屋内全面禁煙の範囲を拡大したい。
加熱式たばこの扱いも課題だ。受動喫煙の影響が十分に解明されていないため、紙巻きたばこより規制を緩めた。研究を進め、適正な対策を検討してもらいたい。
東京都は、国の規制より厳しい受動喫煙防止条例を定めた。従業員を雇う飲食店は、面積にかかわらず原則禁煙とする。都内の飲食店の84%が対象になるだけに、影響は大きい。飲食業界の猛反発を小池百合子知事が押し切った。
国際オリンピック委員会とWHOは「たばこのない五輪」を推進する。近年の開催都市の多くは、屋内禁煙を実施した。東京五輪を控え、国際標準に近い規制に踏み切ったことは理解できる。
都は、喫煙専用室を設ける店に費用の9割を補助する。実効性を持たせるには、飲食店への支援と指導監督の強化が欠かせない。
他の自治体も、地域の実情に見合った対策を工夫すべきだ。