「価格弾力性」が生んだ逆説的経済

禁煙者が増えても儲かってる? タバコ産業の“逆説的”成長の真相

2025.11.1  COURRiER Japon https://courrier.jp/news/archives/420274/

世界各地で喫煙者は減少傾向にある。米国では過去10年間で成人の喫煙者がおよそ2000万人減少し、紙巻きタバコの販売本数も3分の1以上減った。にもかかわらず、米国のタバコ産業は依然として好調を保っている。

たとえば、2024年初めに米国のタバコ銘柄に投資していた場合、ハイテク株中心のナスダック指数を上回るリターンを得られたと、英誌「エコノミスト」は報じている。ナスダックの投資利益率が54%増だったのに対し、タバコ企業は65%増だった。

この株価上昇の背景には、奇妙な経済現象がある。近年、米国内で販売されるタバコ1本あたりの営業利益率はわずか数年で約50%から60%に上昇しており、2025年のタバコ・葉巻業界全体の営業利益は220億ドル(約33500億円)に達する見込みだという。

衰退産業としては悪くない数字だ。通常、顧客が減れば企業の売り上げも落ち込み、業界全体が縮小する。だがタバコ産業はこの常識を覆している。一体なぜか?

残っているのは「どんなに高くても吸い続ける」層

この背景にあるのは、経済学の基本概念である「価格弾力性」だという。これは、経済学の基本概念で、価格が変動したときに需要がどの程度変化するかを示す指標だ。

かつて喫煙が一般的だった時代には、少しでも値上がりすれば購買を控えたり禁煙を決意したりする消費者が少なからずいた。しかし、禁煙が社会的に定着したいま、残っている喫煙者の多くは「どんなに高くても吸い続ける」層である。つまり、現在のタバコ需要は価格弾力性が極めて低く、企業が値上げしても売り上げが大きく減らない構造になっている。

実際、米国ではタバコ価格の上昇ペースが一般的なインフレ率を大きく上回っている。

2017年、マールボロ1箱の値上げ率は全体の物価上昇率(2.1%)よりわずかに高い2.9%だった。だが2023年には、全体のインフレ率が3%にとどまる一方、マールボロの価格は7%以上も上昇している。タバコ会社は減少する販売本数を、より高い販売価格で補う戦略を取っているのだ。

同誌によれば、インペリアル・ブランズ(英国を拠点とする多国籍のタバコ会社)は「販売量の減少を価格戦略で相殺できる」と明言し、煙の出ない製品(加熱式や電子タバコ)への移行をグローバルスローガンにするフィリップ・モリス・インターナショナルも「紙巻きタバコの根強さ」を強調している。

この構造は短期的には収益性が高い。市場が縮小しても、忠誠度の高い喫煙者に対して値上げを繰り返すことで利益を維持できるからだ

しかし、長期的に見れば限界がある。いずれ“筋金入り”の喫煙者も高齢化し、禁煙するか、あるいは他界する。さらに、価格上昇が続けば、安価な闇市場の製品に流れるリスクも高まる。

そして、そのとき初めて、人の依存に支えられたこの“奇妙な繁栄”は終焉を迎えると見られている。