衝撃の真実:数回の喫煙でも生涯にわたるダメージに?
Monica M. Bernardo / Medscape 2025/6/17
タバコに安全な曝露量は存在せず、短期間の曝露であっても、呼吸器疾患、喘息、アレルギー、種々のがんのリスクが上昇しうることを示す科学的エビデンスが存在する。
喫煙は、呼吸器および心血管の健康にとって脅威となるだけにとどまらない。全身性の依存が複数の臓器に持続的な損傷を引き起こすことを示す、科学的研究が増加しつつある。喫煙は免疫系を弱らせ、脳の機能的・構造的変化を引き起こし、精神的健康の低下に関与する。また、喫煙により腸内細菌叢が乱れ、肝臓、腎臓、膵臓の疾患が促進される。
まとめると、タバコによるダメージは、肺や心臓にとどまらず拡大し、体全体に影響を与える。この背景から、より害が少ないのではないかという考えでベイピングの人気が上昇している。しかし最近の研究では、電子タバコの使用が喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症率上昇と関連しており、この考えが誤っていることが示されている。
これらが発するエアロゾルにも発がん性物質が含まれており、さらに長期的な害がもたらされる。喫煙が早死をもたらすことに議論の余地はないが、この警告は、喫煙者や若年者からは無視されてしまうようだ。しかし、数字は明白である。
世界保健機関(WHO)によると、年間800万人超がタバコが原因で死亡している。そのうち700万人超は直接的な使用により死亡しており、約130万人は副流煙に曝露する非喫煙者である。
タバコは、肺がんによる死亡の90%、COPDによる死亡の95%、心血管死の50%、すべてのがん死の30%の原因となっている。全喫煙者の半数は、タバコ関連疾患により死亡し、非喫煙者よりも寿命が平均10〜15年短くなるだろう。まとめると、スペインや他の先進国において、喫煙は最も予防可能な死因・疾病原因である。
免疫への影響
タバコの最も重大な影響の1つは、免疫系の低下である。数件の臨床研究において、喫煙により体の自然防御機構が弱まり、細菌/ウイルス/真菌の感染への抵抗力が低下することが示されている。
喫煙は、好中球およびリンパ球に直接害を与えてその走化性および貪食能を低下させ、感染に対する体の防御を弱める。さらに、白板症、ニコチン性口内炎、黒色症を含む粘膜疾患の有病率は喫煙により高くなるが、それらの一部はがん化のリスクとなる。
Journal of Cancer Prevention誌に掲載された韓国の大規模研究では、1万2,249人のナチュラルキラー(NK)細胞活性が比較された。現喫煙者のIFN-γ値(中央値1,422pg/mL)は、元喫煙者(1,791pg/mL)および非喫煙者(1,504pg/mL)と比較し有意に低かった。喫煙量が増えるほど、免疫機能の低下は大きくなった。
別のin vitro研究では、無症状の喫煙者から得た末梢血単核細胞は、インターロイキン(IL)-1β、IL-6、TNFαなどの炎症性サイトカインの分泌量が多かったが、刺激後のNK細胞の傷害活性は低下していたことが明らかになった。言い換えれば、体の炎症反応は増加したが、防御能は低下していた。
さらにニコチンは、他の免疫細胞の挙動を変えてしまう。ニコチンは、それらの免疫細胞の寿命を延長し、感染部位への遊走性を高めるが、細菌やウイルスの排除能は低下する。たとえば、肺において、マクロファージは病原体認識機能の一部を失い、体の反応はさらに弱まる。
また喫煙者では、B型肝炎などのワクチン接種後の防御抗体の産生量が少なく、異常な免疫反応に関連する抗体値が増加する。
細胞レベルの影響
喫煙時には、口、鼻、喉の細胞が最初にその影響を受ける。タバコに含まれる50種類超の発がん性物質は、すぐに唾液および鼻汁に溶け込み、口内および鼻咽頭の上皮組織に広がる。これらの発がん性物質は、酸化ダメージ、細胞死、DNA損傷を引き起こし、その修復時にがんにつながる変異が誘導される場合がある。喫煙は、口腔がんの主要なリスク因子である。
1件の臨床試験では、口腔衛生を控えるよう依頼して歯肉炎を誘発したところ、喫煙者において歯肉炎が多く生じた。喫煙者は、非喫煙者と比較し歯肉出血は少ないが、病原性細菌数が多く、IL-8、IL-17、IFN-γなどの免疫の調整に重要なサイトカインの値も非喫煙者より高かった。
200人の喫煙者を100人の非喫煙者と比較した別の試験では、喫煙者は唾液中の細菌叢の多様性が低く、Streptococcus、Prevotella、Veillonellaなどの病原性の可能性がある属が優勢であり、脂質バイオマーカーとの有意な関連がみられた。
消化器への影響
慢性的なタバコへの曝露は、血管の蛇行増大、毛細血管内径の縮小、血流の低下を特徴とする歯肉の微小循環障害など、さまざまな口腔内の健康の変化をもたらす。これらの変化は、治癒を妨げ、目に見える炎症の兆候を減らし、最終的には歯周病の発症および進行に関与する。
喫煙者の口内細菌叢ではStreptococcus mutansが優勢であり、唾液の酸性化、唾液分泌量の低下、IgA値低下によってう蝕の発生が増加する。タバコにより味覚および嗅覚は低下し、感覚器官の神経伝達能喪失により常に苦味が引き起こされる。
口、食道、胃において、タバコは食道入口部括約筋を弱め、胃食道逆流を促進し、頻繁な胸焼けを引き起こす。タバコは、胃腸において消化性潰瘍の発生率を上昇させ、治癒が遅れ、Helicobacter pylori感染の可能性を上昇させる。
喫煙は、腸内細菌叢のバランスを乱し、粘膜の血流を減少させ、慢性炎症や腸透過性を亢進させる。喫煙によりBifidobacteriumなどの善玉菌が減少し、他種の細菌の割合も変化することを示す研究もあり、それによりクローン病などの炎症性疾患が悪化しうる。他の研究では、喫煙と胆石リスクの上昇、肝疾患悪化、膵炎の発生率上昇や、口、食道、胃、膵臓、肝臓、結腸、直腸の消化器系腫瘍の発生率上昇との関連が示されている。
神経系への影響
ニコチンは、タバコへの依存症をもたらす主成分であり、喫煙時に脳に引き起こされる快感の原因となる。血中に入ったニコチンは、副腎に達することでアドレナリン放出のトリガーとなる。それにより血圧が上昇し、心拍数および呼吸数が増加する。
このアドレナリン分泌が快感を生む。ニコチンは、神経信号を伝達するニコチン性ニューロン受容体を標的とする。継続的使用により、これらの受容体の感受性や受容体数は低下し、同様の作用を得るためには、より高用量のニコチンが必要となる。このメカニズムが依存を生むが、その理由は、ニコチンが脳の化学的変化をもたらし、意思決定や衝動制御を修飾するためである。
その結果、依存症がもたらされるだけでなく、そのような受容体の継続的変化は、記憶障害、重症筋無力症(神経と筋肉の間の情報伝達の障害による筋力低下)、神経障害性疼痛、不眠症、集中力低下などの神経学的・精神的な健康問題と関連する。喫煙は、統合失調症、精神症、うつ病、不安症、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患のリスク上昇をもたらし、禁煙後も認知障害が持続する可能性がある。
脳の老化
タバコは、脳の自然な老化を加速させる。10年前に英国で実施された試験では、喫煙者の大脳皮質は、非喫煙者よりも早いペースで薄化したことが見いだされている。この大脳皮質の萎縮により、記憶、注意、言語、意識などの基本的機能に関連する領域が損傷し、認知機能低下、認知症、脳血管疾患のリスクが上昇する。喫煙者が禁煙した場合、大脳皮質は元の厚みの一部を回復するが、そのことからは大脳皮質は再生可能であることが示唆される。禁煙は、脳の損傷、認知症や他の精神疾患のリスク低下のための最良の方法である、と研究者らは述べている。
代謝への作用
内分泌・代謝系において、ニコチンはストレス反応を制御する視床下部・下垂体・副腎系に影響を与え、代謝や食欲の調節を乱す場合がある。これらのホルモンの乱れは、他の生命機能に加え、体重、脂肪分布、コルチゾール反応にも影響しうる。喫煙により誘発されたディスバイオシスは、腸内細菌叢の変化を通じて代謝疾患リスクを上昇させる。
とくに懸念されるのは、妊娠中の胎児に対する影響であり、それにより早産、低出生体重、死産のリスクが上昇する。喫煙者の母親から生まれた乳児は、幼少期の呼吸器、心血管、アレルギーの問題をより多く経験する。喫煙は外見にも痕跡を残し、皮膚の早期老化、創傷治癒不良、口臭、持続的な歯の黄ばみを引き起こす。
喫煙は、失明、聴力低下、骨粗鬆症、慢性腰痛、内皮機能障害、不整脈、肺損傷、心臓の構造的変化、末梢血管疾患のリスク上昇と関連する。
受動喫煙
これらの作用すべてが喫煙者において生じるが、大きな懸念として、受動喫煙として知られているタバコの煙への受動的な曝露が、開放空間であっても非喫煙者にリスクをもたらすことが挙げられる。
科学的エビデンスでは、安全な曝露量は存在しないことが示されており、短時間の曝露であっても、呼吸器疾患、喘息、アレルギー、さまざまながんのリスクが上昇しうる。
スペインでは、2020年に35歳超の成人において推計747人が受動喫煙により死亡した。また受動喫煙は、間接的には年間約130万人の死亡に関与している。喫煙者1人につき、テラスの空気汚染は最大30%増加し、毒性物質が衣服、髪、体表面に付着して、タバコの火を消した後も害をもたらす。
その影響は、とくに小児において重大であり、幼少期の曝露の場合は、呼吸器感染症リスクが70%上昇し、成人期のがん発症リスクも上昇する。受動喫煙をする非喫煙者では、心筋梗塞および脳卒中リスクも上昇する。妊娠中の女性においては、曝露により死産および他の胎児合併症のリスクが上昇する。
This story was translated from El Medico Interactivo.
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Cite this: Can a Few Puffs Wreak Lifelong Damage? The Shocking Truth - Medscape - June 17, 2025.
Medscapeオリジナル記事はこちら
https://www.medscape.com/viewarticle/can-few-puffs-wreak-lifelong-damage-shocking-truth-2025a1000g4i