配信 朝日 たばこ1箱4千円 豪州で出回る大量の密輸品 高すぎる税金が裏目か:朝日新聞
たばこ1箱4千円――。世界で最もたばこが高いとされるオーストラリアで、海外から密輸した安価なたばこが大量に出回っている。禁煙を促すために導入した世界でも最高水準のたばこ税が、かえって密輸品の流入を招いたとの指摘もある。豪州の禁煙政策が岐路に立たされている。
「1箱15ドル(約1500円)です。安いでしょう?」。南部メルボルン郊外のたばこ店。レジ裏の棚から取り出した20本入りのセブンスターの箱を手に、男性店員は得意げにこう続けた。「この辺りで一番安いですよ」
公共放送ABCによると、1箱の平均価格は40ドル(約4千円)を超え、日本の約8倍だ。銘柄や本数などで異なるが、大手コンビニの販売価格は1箱約30~50ドル(約3千~5千円)。スーパー大手コールズがオンラインで販売する「マールボロ」は1箱で約63ドル(約6300円)に上る。
高額な理由は、政府が禁煙政策の一環で2010年代から導入したたばこ税だ。禁煙を促し、医療費を抑制するのが目的で、段階的に増税が続いてきた。
25年10月現在の1本当たりの税額は1.49ドル(約150円)にまで上昇。1箱あたり約4分の3を税金が占め、豪州は世界で最もたばこが高い国として知られている。
政府の統計では、01年には国民の約20%が日常的に喫煙していたが、22~23年には約8%に減った。政府は30年までに喫煙率を5%以下にする目標を掲げ、今年7月からはメンソールタバコの販売も禁止となった。
「なんでこんなに安いんですか?」 店員の答えは
ではなぜ、街のたばこ店が1箱15ドルで売れるのか。どうしてこんなに安いのか。そう店員に聞いても、「私にも分からない、と答えるようにしています」と、けむに巻かれた。
正規品には、喫煙で傷ついた肺などの写真をパッケージに載せることが義務づけられている。だが、この店のたばこに、そうした写真は表示されていない。棚に並んでいるのは、日本製や韓国製など外国製品だった。
インターネットには「20ドル(約2千円)で買えた」などの口コミがあふれる。40代の会社員女性は取材に、「密輸品が流通していることは皆の共通認識だ」と話す。「中身が同じ50ドルと15ドルのたばこ。人々がどちらを選ぶかは明らかだ」
安価なたばこの大半は密輸品とされる。健康被害を警告する写真も付けられていない。ABCは10月、業界団体のデータとして、国内で消費されるたばこの64%が「非合法」で、違法市場の規模は約100億ドル(約1兆円)に上ると報じた。
たばこ密輸は「低リスクで高収益」
背景には密輸組織の存在が指摘されている。豪州国境警備隊(ABF)は「密輸組織は、違法たばこの販売を低リスクで高収益なビジネスだと認識している」とみる。たばこは違法薬物ではなく、外国で大量に仕入れれば、利益率も高い。
密輸たばこをめぐる利権争いも起きている。特に南東部ビクトリア州では犯罪組織同士の抗争も続く。ABCによると、犯罪組織から仕入れた非合法たばこを販売した店舗が、敵対する別の組織に放火されるなど、過去2年間で少なくとも125件の事件が起き、100人以上が逮捕された。
捜査当局は専門の捜査態勢を組んで摘発を続ける。ABFによると、7~9月に税関などで押収した紙巻きたばこは約5億8600万本、電子たばこは300万本以上に上った。中国から7月に到着したコンテナ船からは約2トンのたばこが押収された。品目は「家具」と記載されていたという。
対策に乗り出す自治体もあり、南豪州では6月から、違法品の販売を知りながら物件を貸した家主に罰則が設けられた。ただ、対策は州によってばらつきがあり、全国的な対策の強化には至っていない。
違法品流通は税収にも影響を及ぼしている。ABCによると、たばこ税収はピークだった19年の約160億ドル(約1兆6千億円)から、25年は74億ドル(約7400億円)に減少した。
最大都市シドニーを抱えるニューサウスウェールズ州のミンズ州首相は、高すぎる税率が違法市場の拡大につながったとして、政府にたばこ税の引き下げを訴えている。高税率で禁煙を促す政策に対し、見直しを求める声が強まっている。