がん社会を診る 東京大学特任教授 中川恵一
2025年3月26日 5:00 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD12CYQ0S5A310C2000000/
私が議長を務める国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」で、中小企業のがん対策について大同生命保険と共同調査を実施してきました。中小企業向けの生命保険を取り扱う同社は、中小企業の様々な動向を調査する経営者アンケート「大同生命サーベイ」を毎月実施し、結果を公開しています。
2024年11月に実施したサーベイで、中小企業の経営者の生活習慣に関する大変興味深い結果が出ました。
このサーベイでは厚生労働省が毎年実施する「国民生活基礎調査」の質問項目にある「喫煙習慣」「飲酒習慣」「睡眠時間」を選び、同じ質問を中小企業の経営者(男女別/年代別)にたずねています。経営者と一般の人々の生活習慣を比較するためです。
「喫煙習慣」の質問で「毎日吸っている」と回答した人の割合は、性別や年代別にかかわらず「中小企業経営者>一般国民」となりました。若い経営者ほど顕著で、30歳代の男性をみると中小企業経営者が39%だったのに対し、一般国民は11%と、28ポイントの差がありました。40〜50代でも、男性経営者と一般国民との差は20ポイントを超えています。
男性の発がん原因の4分の1がたばこですから、経営者に喫煙者が多いことはとくに問題です。日本人男性の3人に2人近くががんに罹患(りかん)しますから、経営者のがんのリスクは平均を上回っています。
女性の場合も、経営者に占めるたばこを毎日吸う人の割合は一般の人よりはるかに高く、30代で4倍超、40代で5倍弱、50〜60代でも約3倍となりました。たばこの煙には70種類もの発がん性物質が含まれ、ほぼすべての臓器のがんを増やします。がんが検査で発見できる大きさになるまでに20年もかかりますから、30代に喫煙習慣があると、後ほど働き盛りの年ごろになってからがんと診断されることになります。
「飲酒習慣」の問いに対し「毎日飲む」と回答した人の割合は、30歳代の男性のうち中小企業経営者は21%、一般国民は13%で、8ポイントの差がありました。男性経営者の場合は40代、50代、60代と年代が上がるにつれて「毎日飲む」と回答した人の割合が増加傾向でした。
「睡眠時間」の回答で最も短い「5時間未満」を選んだ人の割合は、30歳代の男性中小企業経営者は12%で、一般国民の7%を上回りました。
企業規模が小さいほど、経営者が担う役割は大きくなります。私の実家も、中川酸素という小さな会社を経営していました。経営者の体は自分だけのものではありません。自覚を持って健康をいたわってほしいです。