余命の延長は禁煙が有用:200万人のデータ解析
ドイツHamburg-Eppendorf大学医療センターのChristina Magnussen氏ら、The Global
Cardiovascular Risk Consortium
(GCVRC)のメンバーは、世界の39カ国で行われた133件のコホート研究のデータを統合して、5つの危険因子(高血圧、脂質異常、低体重または過体重、糖尿病、喫煙)が、生涯にわたる心血管疾患と総死亡に与える影響を推定したところ、心血管リスクを減らすには高血圧の是正が最も効果的で、総死亡リスクを最も減らすのは禁煙だったと報告した。結果は2025年3月30日のThe
New England Journal of Medicine誌電子版に掲載された。
GCVRCは、5つの危険因子がある人とない人の心血管疾患および総死亡の生涯リスクを推定し、特定の危険因子を修正した人と修正しなかった人の余命を比較して、効果的な一次予防戦略の構築を目指している。
この研究では、6大陸8地域(北米、ラテンアメリカ、西ヨーロッパ、東ヨーロッパとロシア、北アフリカと中東、サハラ以南のアフリカ、アジア、オーストラリア)の39カ国のコホートから、18歳以上の207万8948人の個人データを統合し、50歳時点での5つの危険因子の有無と、90歳までの心血管疾患発症および総死亡の関係を調べた。心血管疾患に関する分析は、ベースラインで心血管疾患だった人や追跡情報が得られなかった人を除外して、122万7987人を対象にした。死亡に関する分析は204万2815人を対象にした。
危険因子は、高血圧(収縮期血圧130mmHg以上)、脂質異常(non-HDL-C値130mg/dL以上)、低体重(BMI<20)、過体重や肥満(BMI≧25)、糖尿病(診断を受けている患者)、喫煙(紙巻きタバコ、葉巻、シガリロまたはパイプを1日1回以上、もしくは時々吸う人)とした。心血管疾患は、初回の致死的または非致死的心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血行再建術、脳卒中とし、心血管疾患死亡または原因不明による死亡を追跡した。
対象者の収縮期血圧の中央値は128.7mmHg(四分位範囲116.7~142.0)、non-HDL-Cの中央値は155.6mg/dL(127.7~186.8)、BMIの中央値は25.7(22.8~28.9)、7.7%が糖尿病、22.3%が現在喫煙者だった。追跡期間の中央値は、心血管疾患が7.6年(5.9~15.1)、死亡については8.5年(6.7~15.5)になった。
心血管疾患の生涯リスクは、危険因子を1つも持たない女性が13%(95%信頼区間12-16)、男性は21%(18-23)で、5つ全てがある女性は24%(21-30)、男性は38%(30-45)だった。
90歳より前に死亡する生涯死亡リスクの推定値は、危険因子を1つも持たない女性が53%(36-88)、男性は68%(57-77)、5つ全てがある女性は88%(72-99)、男性は94%(87-97)だった。
危険因子がない人と5つある人を比較すると、50歳を基準にした心血管疾患のない状態での生存年数の差は、女性で13.3年(95%信頼区間11.2-15.7)、男性は10.6年(9.2-12.9)だった。同様に、全余命の差は、女性で14.5年(9.1-15.3)、男性は11.8年(10.1-13.6)だった。
5つの危険因子を修正した場合に得られる有益性を推定した。50歳以上55歳未満の間は全ての危険因子が存在しており、55歳以上60歳未満の期間に修正されたとして、修正を行った人と行わなかった人の推定生存年数の差を算出した。5つの因子の中で、心血管疾患のない生存年数の延長が最も大きくなるのは高血圧を修正した場合で、女性は2.4年(1.3-3.6)、男性は1.2年(0.8-1.7)だった。全余命の延長が最も大きくなるのは喫煙を修正した場合で、女性は2.1年(1.1-3.0)、男性は2.4年(1.9-2.9)だった。
より多くの危険因子を修正した人は生存年の延長が長くなり、心血管疾患のない生存年数の延長は、高血圧と脂質異常と糖尿病を修正すると、女性で3.3年(1.9-4.7)、男性で1.5年(0.4-2.6)になった。高血圧と脂質異常と糖尿病と喫煙を修正すると、それぞれ5.1年(3.7-6.4)と3.1年(2.1-4.0)になった。全余命についても同様で、3つの危険因子を修正するとそれぞれ3.3年(2.3-4.4)と2.5年(1.6-3.4)、4つの危険因子を修正すると5.2年(4.1-6.3)と4.5年(3.5-5.6)となった。
これらの結果から著者らは、男女ともに50歳時点で5つの危険因子がない人は、5つ全てがある人よりも10年以上余命が長くなり、個々の危険因子の中では、中年期に高血圧を是正すれば心血管疾患なしでの生存年数の延長が最も長く、禁煙すれば全余命の延長が最も長くなると結論している。この研究はGerman
Center for Cardiovascular Researchの支援を受けている。
原題は「Global Effect of Cardiovascular Risk Factors on Lifetime
Estimates」、概要はNEJM誌のウェブサイトで閲覧できる。