Keynote Address at the opening of the 11th Global Conference on Tobacco or Health
http://www.who.int/director-general/speeches/2000/20000807_chicago.html

2000年8月7日 シカゴ

第11回たばこか健康世界会議基調講演

たばこ病との戦い

ブルントラントWHO事務局長

 

たばこコントロールのために、みなさんと一堂に会することができて、たいへん嬉しく思います。

現在私達は将来に明るさを感じて集まっています。例えば第一に合衆国その他の先進工業国で、全般的な喫煙率は良い傾向を示していること、第二には、たばことの戦いの場面が劇的に変化してきたことが挙げられます。

戦いは50年以上も続いています。最初の大きな転機は、36年前ルーサー・テリー博士が、記念すべき衛生総監報告書を発表した時でした。たばこによる健康被害が明確に述べられました。たばこはがんを増加させ、死を招きます。このことが世界中の多くの国において、たばこ病蔓延の抑制策をとる基礎となりました。

第二の転機は過去三年間におこりました。多数の法廷審理や評決が、もう一つの重要な原理を示したのです。たばこ会社は、喫煙その他のたばこ使用によって引き起こされる害について、責任を負うべきだということです。この原理が今後国の政策と世論をリードするでしょう。またたばこ会社は将来の戦略にこの原理を考慮せざるを得ないでしょう。

残念ながらたばこコントロールの進歩は、グローバルに見て楽観できません。われわれが勝利を収めつつあると信じる人も、世界的な数字に注目すべきです。

そこに見られるのは、たばこが今も世界的に蔓延しつつある疫病だということです。すでに報告したとおり、たばこによる全世界的な死亡は1998年に年間400万人に達し、2030年には年間1千万人に上ることが予想されます。死亡者が年間1千万人にも増加する疫病は、公衆衛生上エイズにも匹敵する問題でしょう。しかもその70%が途上国で起こります。

結果は明らかです。たばこは個人にとっての悲劇だけでなく、われわれのヘルスシステムに大きな負担をかけます。税金を消費し、われわれの社会の経済生産性を損ないます。これは従来合衆国やヨーロッパで起きていたのですが、現在ではこれらの重荷が、すべての資源を社会的経済的基盤の充実に充てねばならない途上国に、のしかかっています。彼らは人為的に作られた疫病に対して、余分な費用をかけるゆとりはないのです。

たばこ会社は市場を開拓するためには、生活習慣を形成する適齢期の、若年層をとらえなければならないことを知っています。このためたばこ会社は、合衆国やヨーロッパでは何十年も前に断念せざるを得なかった、露骨なマーケティングを行なっています。たばこの空き箱がディスコへの無料入場券となるーー十代の集まる場所で可愛い少女が無料サンプルを配るーー若者向けのスポーツや文化イベントのスポンサーになるーーなどです。西欧的なライフスタイルの広告は、明らかに若年層を狙っています。

それはスリランカ、カザフスタン、中国、コートジボワールなど、何百億市場を広げるたばこ会社を締め出すための、適切な法的、経済的システムを持たない国々で行なわれています。それらの行為は、たばこ会社が「われわれは若者の喫煙を憂慮しており、販売促進は喫煙習慣を自由な意思で選択できる成人だけを対象としている」と主張しても、実は茶番だと証明しています。

WHO、CDCなど多くの国際機関が行なった、「世界青少年たばこ調査」の結果をみてみましょう。この調査は青少年の喫煙についての基礎的統計を示し、われわれが青少年の実態を把握する上で役立つでしょう。その概観の速報を、WHOブリテンの最新号に載せました。

途上国12カ国の13−15歳5万人の数字はこうです。24%が試し喫煙をし、9%が現在喫煙者だと答えています。喫煙経験者1/4が、11歳以前にはじめて喫煙したと言います。そして注目すべきことは、かれらの68%がこの習慣から抜け出したがっているということです。

たばこ会社が「青少年に喫煙を始めさせたくない」と言っているのが真実ならば、すべての国でそれぞれのブランドについて、青少年の喫煙率を下げる事業を進めることが、かれらの真剣さを示す証になるでしょう。たばこ会社の「青少年のたばこ消費を実質下げる競争」を観察し、達成できなかったものに対し、どう対応すべきかを考えましょう。

WHOブリテン最近号は、たばこ会社の別の主なターゲットである女性にも注目しています。女性は現在全世界の喫煙者の1/6を占め、たばこによる年間死者400万人のうち50万人が女性です。たばこ会社は女性を未開拓の市場とみなし、喫煙率を上げようと企てています。

これは凶報です。イギリス下院の最近の発表は「もし先進工業国でさらに厳しいたばこが規制策がとられた結果、喫煙関連死が世界のさらに貧しい国に輸出されるだけとなれば、空しい見せかけの勝利となるだろう」と述べています。

しかし、われわれの展望は暗いものではありません。過去2−3年に起きた様変わりは巨大なものです。国や地方、また国際的なアクションが、公衆衛生の課題を前進させています。これは新しい協力体制、ネットワーク、団結強化の結果です。

2ヶ月前バンコックで、私は世界禁煙デーに1万人のボランティアが集ったのを見ました。

世界禁煙デーはいまや行事だけでなく、行動の過程でもあります。5月の行事の準備過程で、国際的公衆衛生界にたばこ規制について、世界的な論議を巻き起こします。

「たばこは人を殺す。だまされてはいけない」は、映画、音楽、スポーツなどを通じたたばこ広告と販売促進に焦点を当てた、今年の世界禁煙デーのテーマでした。たばこ広告は自由と快楽の見せかけに包まれ、偽りの科学的データ、政府の公衆衛生政策を通して、従来世界にたばこ産業のよいイメージを与える作用をしてきました。適切な人々の手中の適切な情報が、たばこコントロールにおいてかつてなかった将来の展望をもたらします。

同じ世界禁煙デーに合衆国では、公衆衛生総監がフィラデルフィアで、たばこ会社がどのようにしてマイノリティを狙っているかを、広く知らせるためのイベントを、ジェス・ブラウン師と共に行ないました。

レバノンでは、ファーストレディがたばこ広告と販売促進に反対を強く呼びかけました。

ブラジルの厚生大臣は、大量のマスメディアによる反たばこキャンペーンをはり、たばこ製品に対する消費税値上げを発表しました。

南アフリカ厚生大臣は、たばこ販売が規制されるべきであり、無料頒布、たばこ広告は禁止すると発表し、先月から法律が施行されています。

カナダでは、厚生大臣が世界禁煙デーを期して、新しいたばこ包装の警告表示規定内側)(表示例)を披露しました。皆さんの多くがご存知のように、喫煙の結果を肺に限らず、血管や歯茎についても、絵や写真入で詳しく解説したものです。

スポーツやメディア界のスターも、たばこ反対の声を挙げています。

パキスタンクリケットチームの前キャプテン、イムラン・カーンは、国際スポーツの主催者、選手の両方に、たばこ会社のスポンサーシップを受けないようにと呼びかけました。彼は「スポーツは健康と活力を象徴しているし、たばこは病気と死を招く。両者は共存できない」と言っています。

合衆国では、ロスアンゼルス ドジャーズのエリック・カルロスが、たばこ販売促進反対の高校生ラリーに参加しました。彼はまたニューヨーク ヤンキーズ、クリーブランド インデアンズ、ニューヨーク メッツ、ボストン レッドソックスなどの選手達と一緒に公共サービス放送に出演して、たばこを吸わないことの大切さを語っています。スモークフリー(たばこと無縁の)サッカー キャンペーンも、弾みをつけています。

スーパーモデルのターリントンとミュージックグループのボーイズUMenも、「スターたちはたばこを美化したり、宣伝に手を貸すのを止めよう」というWHOの呼びかけを支持しています。これらは一回限りのイベントではありません。タバコフリー(たばこのない世界を目指す)政策を当然の規範として求める、世界的な動きの一例にすぎません。そして私達はその成果を見ることができます。

世界禁煙デーにEU(ヨーロッパ連合)David Byrne厚生大臣は、たばこ製品に対するEUの新規制に対して、強力な支持を求め、EU議会は厳しい一連のたばこ対策―たばこ包装の表面積の50%を警告表示に充てること、ロータール、マイルド、ライトなどの紛らわしい表現を禁止すること、タールとニコチンを減らすこと―を議決しました。

最近マレーシアの厚生大臣は、欺瞞的なたばこ広告の影響で、マレーシアのティーンエイジャーの喫煙が増加していることを理由に、あらゆる形態のたばこ広告の禁止を提案しました。

スイスはたばこ税の大幅値上げと、青少年の喫煙開始を防止するための方策強化を法制化しました。

ウガンダでは、議会の社会福祉委員会が厚生大臣に対し、病院と特定の場所の禁煙、たばこ広告禁止、たばこ税引き上げ、たばこ会社にその製品の目立つところにはっきりと目立つ警告表示をつけさせるよう、要請しました。

韓国では反たばこグループが、青少年がたばこ依存症になるのを防ぐため、たばこ広告の全面撤廃を政府に強く要請しました。

オーストラリアでは、若い女性に宛てた絵入り反たばこ広告を、政府が発表しました。新しいその広告は、若い女性に吸われたたばこ煙が肺へ達する過程を追っています。健康な肺の写真が出て、それにスモーカーが一生に吸うタールが注ぎ込まれます。

モーリシャスとスペインは、たばこ会社を相手取った訴訟を始めました。ノルウェイも準備中です。

世界中の多くの国で、草の根市民運動が政府の対策を促しています。

その対策はいくつかの十分テストされた、効果的な方法に収斂されます。価格引き上げ、たばこ広告とスポンサーシップの全面禁止、強力な反たばこ広告、禁煙支援、禁煙空間の拡大、密輸の規制です。この処方は途上国へのアドバイスでもあり、今週発表されるワールドバンク著WHOブックの基調となっています。それによると、たばこ増税は喫煙率を低下させ、また歳入をも増加させます。このことは実に良いニュースであり、成果です。世界中の政府が取り入れる必要があります。

.今回私たちの周りで繰り広げられるような、たばこについての真にグローバルな議論は、健康に関係があり、それを擁護する組織間によって、意義ある相互作用が行なわれるときにのみ、実効があります。

たばこ病の蔓延に痛撃を与える、活力と実効性のある世界的運動を確立するためには、NGOからの強力な支持が不可欠です。多くの国々で、国際的な協力関係を伸ばしつつあるNGOの活動が、活発化しています。

「たばこフリー イニシャチブ」の最大資金提供者である国連基金は、NGOやメディアアドボカシーから、青少年運動や国レベルのキャパシティビルディングなど広範囲のプロジェクトにも支援を行なっています。ロックフェラー財団は、東南アジアのキャパシティビルディングに資金を提供すると発表したところです。また薬品会社もその専門分野で援助を行なっています。

WHOはこの世界的な戦いにおいて、中心的役割を務めてきました。理由は明白です。世界の健康専門機関として、私たちはすべての人が到達しえる最高の健康を保つことを目指して、活動する任務を負っています。私たちの最優先すべきことは、健康上の公正さ、公平さを進め、世界のすべての人々に幸福をもたらすことです。私たちはマラリア・結核・エイズのような感染症と戦います。同時にたばこの恐るべき数字を減らす任務も尽くさなければなりません。

NGOであれ、民間の分野、または国際組織であれ、すべての行動は同一方向を指しています。その論理的結論はたばこ規制枠組み条約の形を取るでしょう。

たばこ規制枠組み条約はWHOが提案した初の公衆衛生に関する国際条約です。192の加盟国によって、条約作成は承認されました。加盟国による草案作成は来る10月から始まる予定です。地雷禁止条約と同様に、たばこ規制条約も殺人を止めさせることです。条約は国の健康政策を促すと同時に、巨大企業=たばこ産業の世界的進出を規制するために、国際的枠組みを提供します。条約は各国が広告を規制し、密輸を防ぎ、情報の交換を促進するため、それぞれが採択できる規範を設定します。

例えば、たばこ会社がある国の法廷で、自社の製品ががんを引き起こし、依存性があり、死を招くことを知っていたと証言すれば、その情報は条約の力で、世界中の人々に適用されます。

枠組み条約を採択することは、国によっては困難を伴うでしょう。より良い健康のための戦いには、この部屋にいるみなさんの能力と献身が不可欠です。皆さん、このことで私に力を貸してください。世界中の人々の、より健康な生活を目指す重要な行程で、私とWHOのパートナーになってください。お願いします。

世界的反たばこ運動において、合衆国で起こりつつある事柄は、意味深い刺激と実際的な援助となります。陪審員評決の裁判で公表された書類は、たばこ会社が他の国で何を企み、実行してきたかを知ろうとする活動家や政府にとって、強力な情報源となります。ノルウェイでは、ミネソタのケースで公表された書類によって、たばこ会社が添加物や健康危害について、いかに政府や大衆を欺いていたかを知ることができました。

先週私たちは専門委員会(私も出席しましたが)による報告書を発表しました。それはWHOのたばこ規制策と予算について、たばこ会社が逆向きの働きかけをしていたかどうかを審議するものでした。この作業は、裁判によって公表された書類を基礎として行なわれました。

委員会の結論は明白です。たばこ産業から出てきた書類は、たばこ会社が長年意図的に、WHOのたばこ規制努力を妨害し、破壊しようと操作してきたことを暴露していました。彼らの企みは、緻密で、十分な費用をかけ、洗練されていて普通では目に見えません。

私は委員会の勧告を尊重し、各国の政府、NGOにも同様のことを強く求めます。

この情報をすべてのレベルの行動を先導するために使いましょう。

結論として、私はみなさん方反たばこ運動体は、世界的に統合して使うべき、膨大な知的資源、経験、熱意を持っていることを強調したいと思います。

今日ここに集った世界100カ国以上の国の代表に、私は申し上げます。成功も挫折も共に分かち合いましょう。

政府に対し、未来の世代のために果敢な政策を取るよう、要請してください。決定権者に繰り返し何度も訴えましょう。私たちは効果的な単純な公式を持っています。

 @密輸対策を伴うたばこ価格値上げ
 A宣伝広告・スポンサーシップ禁止
 B公共の場所の禁煙、禁煙支援
 C反たばこ広告実施です。

私たちは共通のゴールを持っています。世界規模でたばこ使用を減らし、それによって何百万人の命を救うのです。

私たちは共通の中心点を持っています。強力で効果的な枠組み条約の実現です。

次世代のために、私たち全員が事態を変える共同作業にとりかかりましょう。私たちが3年後にまた会う時には、実際的な進展が見られるにちがいありません。

私達は国際枠組み条約を締結するでしょう。

少なくとも100カ国で、有効なたばこ規制策が始められるでしょう。

そして幾つかの国では、たばこ使用がとくに若い世代で著しく減少するでありましょう。

ご清聴ありがとうございました。

 

(翻訳 仲野暢子)

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