「中で吸えば集合もスムーズ」喫煙規制ゆるい地方議会

2018年5月31日09時53分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASL5Z3VTBL5ZULBJ00G.html?iref=pc_extlink 

 

 他人のたばこの煙を吸いこむ受動喫煙の対策が一進一退を繰り返している。政府が今国会に提出している健康増進法の改正案の規制内容は大きく後退した。全国の議会棟では、「特別扱い」が続く。東京都は独自の条例を検討するが、反発も根強い。 

「経営が成り立たず、廃業に追い込まれる」

 喫茶店やすし屋、そば屋などでつくる飲食業界団体の代表が今月15日、東京都庁を訪れ、小池百合子知事に強く訴えた。

 都が1カ月前に発表した受動喫煙防止条例の骨子案では、飲食店内は面積にかかわらず、従業員を雇っていれば原則禁煙になる。都によると、対象は都内の飲食店の約84%におよぶ。

 都庁を訪れた団体の代表らは民間調査をもとに条例施行時の経済影響を独自に試算し、「都内で約2千億円のマイナス」と主張。店側が「喫煙」や「禁煙」を選択できるよう求めた。都内の飲食店やたばこ店などの団体も、骨子案の見直しを求める約18万人分の署名を4月に提出した。

 一方、都医師会や都歯科医師会などは今月、受動喫煙対策の推進を求めて約20万人分の署名を提出した。都医師会の尾崎治夫会長は「働く人に着目した点を高く評価している」と支持を表明している。

 賛否が割れる中、小池氏は強気の姿勢を崩していない。受動喫煙対策の強化は、知事就任当初から掲げる「目玉政策」の一つだからだ。慎重な意見が都議会から相次いでいるが、小池氏は朝日新聞のインタビューで「東京は五輪・パラリンピックのホストシティーでもあり、2019年ラグビーW杯も控えている。人の健康を守るというのが基本的な方針だ」と述べ、6月議会に条例案を提出する考えを示した。

 東京の動きを受け、大阪府松井一郎知事も、誘致を進める万博が開催される2025年までに条例を制定する考えを4月に表明した。店舗面積30平方メートル以下のスナックやバーを除く飲食店を原則禁煙とする。政府の健康増進法改正案よりも厳しい内容だ。

 大阪府では約5年前に条例制定をめざし、頓挫した過去がある。当時、松井氏は、飲食店や宿泊施設を除き、公共施設に全面禁煙を義務づける条例案を府議会に提出したが、知事与党の大阪維新の会からも「行き過ぎだ」などと批判が噴出し、条例案を取り下げる事態に追い込まれた。

 喫煙者の松井氏は30日、「一緒に健康増進のため、少し我慢をしていただきたい」と記者団に述べ、理解を求めた。

浮かび上がる議会の「ゆるさ」

 国の法改正案では、飲食店の規制だけでなく、立法機関である国会や議会棟の規制も後退した。

 厚生労働省が昨年3月に公表した当初案では、国会議事堂や議会棟は、喫煙専用室も設置できない「屋内禁煙」となる「官公庁」に分類されていた。だがその後、案から「官公庁」が消え、学校や行政機関などの施設は「敷地内禁煙」、それ以外は喫煙専用室を設置できる「原則屋内禁煙」となった。

 行政機関である省庁や県庁舎は敷地内禁煙となる一方、国会や議会内では、厚労省が省令で定める基準を満たした設備では喫煙できる。ただ、喫煙室などで分煙措置を講じても完全に煙が漏れるのを防ぐのは難しく、世界保健機関(WHO)も「分煙では受動喫煙は解決できない」としている。厚労省は「行政機関は法律を執行する責任があり、ほかの施設に比べて一つ上の規制になった」と説明する。ただ、法改正を議論する中でも、自民党内には「たばこは嗜好(しこう)品。喫煙は個人の自由」「規制は必要ない」という意見は根強かった。

 朝日新聞の47都道府県調査でも、議会の「ゆるさ」が浮かび上がった。

 神奈川県では、県庁舎は禁煙だが、新庁舎6階にある県議会の二つの会派控室には喫煙できる部屋がある。2010年に施行した条例では「不特定または多数の者が出入りすることができる公共的施設」として官公庁の禁煙を義務づけているが、県議会局は「議会は不特定多数の人たちが出入りする場所ではない。議会や会派によるある程度の自治が必要」と説明する。

 自民党神奈川県議団の小島健一団長は「本来は条例を決めた議会が範を示すべきだと思うが、今は移行期間。いずれは喫煙部屋も廃止されるだろう」と話す。

 同様に規制条例がある広島県の県庁舎は禁煙だが、7会派ある議会の4会派の控室では喫煙できる。県がん対策課によると、控室は不特定多数の人が利用する場所ではないため、条例の規制対象外だという。県議会事務局は「議会内で喫煙することで、審議や打ち合わせへの集合もスムーズになる」と説明する。

 福岡県では、「多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙に」との厚生労働省の通知を受け、2011年4月に県庁内を全面禁煙にした。だが、広島県などと同様の理由で、県議会の一部の会派控室と議員、利用者向けの休憩室「議員サロン」では今も喫煙できる。事務局は「サロンはほぼ議員と職員だけが利用しており、不特定多数が利用する公共空間とは言い切れない。今後、禁煙にするべきか議論されるだろう」と話す。

 大和浩・産業医科大教授(健康開発科学)は「昔からいる議員に喫煙者が多いことが、受動喫煙対策が進んでこなかった要因の一つだ。全国で条例制定の機運が盛り上がらなかった原因もそこにある。国の法案でも、議会などが屋内禁煙の対象から外れ、何かしらの忖度(そんたく)が働いたと思われても仕方がない。最近は社会的にも受動喫煙の被害が認知され始めており、対策をとらない議会はますます時代遅れの存在になるだろう。本来、市民の代表である議員がまずは模範を示すべきだ」と話す。

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国の健康増進法改正案と東京都の条例案

・2018.05.31 屋内喫煙、議会の7割可 庁舎内は8割で完全禁煙(朝日)

高知県議会棟の喫煙室1F 高知県議会棟の喫煙室2F

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 〈国の法改正案と受動喫煙〉 政府は今国会に、飲食店を原則屋内禁煙とする健康増進法改正案を提出し、成立を目指している。厚生労働省の当初案では、30平方メートル以下のバーやスナック以外の飲食店を原則禁煙としていたが、現在の案では例外的に喫煙を認める飲食店の規模を「客席100平方メートル以下」とするなど規制は後退した。受動喫煙はたばこを吸わない人が飲食店や職場などで煙や有害物質を吸い込む被害。これによる死者は年間約1万5千人で、受動喫煙がある人はない人に比べ、肺がんになる危険性は約1・3倍になるとされる。受動喫煙によって余計にかかる医療費は、肺がん脳卒中など一部の病気だけで、年間約3千億円超という推計もある。