街をさまよう「喫煙難民」−。4月の改正健康増進法全面施行で企業、飲食店も原則屋内禁煙になった。新型コロナウイルスの感染対策も喫煙所閉鎖に拍車を掛け、行き場を失った愛煙家の路上喫煙が各所でもめ事に発展している。仙台市中心部の事例を通じて考える。

 JR仙台駅前の質店「うつぼ」は最近まで、道路を挟んで立つコンビニエンスストア前の路上喫煙者に悩まされてきた。ビジネスマン、学生らしき若者。ランチタイムや午後3時、同5時のピーク時には30人以上が紫煙をくゆらせた。
 近隣のオフィスビルが屋内喫煙所を閉鎖した4月以降、そうした人の姿が一気に増えたという。元々はコンビニ前にある灰皿を求めての光景だったが、店側の強い要望で灰皿が撤去された8月以降も、長年の慣習からか、状況は全く変わらなかった。
 店の前には灰や吸い殻が落ち、路面や側溝を汚す。入り込む副流煙で従業員が気分を悪くしたり、布製品に臭いがついたり、客から「店に入りづらい」と苦情を言われたり。時には注意すると逆上する喫煙者もいて、トラブルの原因になりかねなかったという。
 店側は仙台市、宮城県にも相談したが、「マナーの問題」と取り上げてもらえなかった。コンビニが入居するビル所有者に陳情することで、11月から喫煙禁止を知らせる掲示物を張り出し、ようやく全面禁煙にこぎ着けた。
 一方で、行き場を失った愛煙家は悲痛だ。職場の喫煙所がなくなったため1日に数回来ていたという50代男性は「どこへ行けばいいのか、惨めな感じ。寒くなる冬が心配だ。多様性を認めて」とため息をつく。
 うつぼの佐藤竜児店長(40)は「解決してよかったが、喫煙者は他の場所に行くだけだろう。ただ排除するのではなく、街の中に一定間隔で喫煙所があれば人が分散するのではないか」と提案する。

◎厚労省は喫煙所の設置費助成

 路上喫煙防止の取り組みはどうなっているのか。
 日本たばこ産業(JT)東北支社は、仙台駅の東西2カ所で屋外喫煙所を運営。「増設を検討中だが、場所がないのが実情」と話す。約1年前まで市中心部のアーケード内に屋内喫煙所を設けていたが、賃料負担などを理由に撤退した。
 担当者は「分煙推進で喫煙者、非喫煙者ともに住みやすい世の中にしたいが、自社だけでの実現は難しい」。東京都千代田区では自治体との連携で喫煙トレーラーを設置した例もある。
 厚生労働省は、中小企業が受動喫煙対策で喫煙所を設置する工事費用の半額(上限100万円)を助成する。ただ宮城労働局によると、宮城県内の本年度の申請(10月末時点)は十数件にとどまる。
 化粧品販売などを手掛けるヒラガ(青葉区)は、店頭の灰皿スタンドに喫煙者がひっきりなしに訪れる状況を受け、来春に店舗内の一部を喫煙所に改築する予定だ。
 平賀ノブ社長(82)は「法改正しても急に喫煙者が減るわけではない。たばこ税を活用して公的な喫煙所の設置を検討してほしい」と行政に注文する。
 仙台市の担当者は「喫煙者、禁煙者双方にとって望ましい姿を他都市の先進事例を検討して模索中」と説明。当面はマナー啓発、受動喫煙防止対策の周知を続けるという。
 たばこの害に詳しい東北大環境・安全推進センターの黒沢一教授(産業医学)は「屋外でも受動喫煙は発生し、肺がんや心筋梗塞などのリスクは屋内同様にある」と語り、禁煙を勧める。