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35 re(1):タバコは働き盛り日本人男性の最大の早死因子−人間ドック・健診では喫煙者に「要禁煙治療」と通知すべき
2006/8/28(月)23:19 - matsuzaki - 3576 hit(s)

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<健康日本21中間評価報告書(案)に対する意見>

タバコは働き盛り日本人男性の最大の早死因子
人間ドック・健診では喫煙者に「要禁煙治療」と通知すべき

松崎道幸(日本禁煙学会理事)

要点
1.喫煙は現在の働き盛り日本人男性にとって最大の予防可能な早死因子である。
2.人間ドック・健診がタバコを検診項目から外していることは、喫煙の健康危険の過小評価を生む一因となっている。
3.当面すべての喫煙者に「要禁煙治療」と通知し強力な禁煙勧奨を実行することが必要である。
4.「喫煙あり」を「要治療」と判定するよう健診・人間ドックの実施要綱を速やかに改正すべきである。
5.上記の改革がなされて初めて禁煙治療の保険給付化が生きる。
6.前記の措置を活用を前提とし、成人の喫煙率を男性25%、女性5%以下に低下させることを当面の目標とすべきである。


T.タバコが最も危険というエビデンスがそろった

日本人が健康で長生きするには何に気をつけるとよいのでしょうか?その答えとなる調査結果が最近相次いで発表され、働き盛りの日本人男性にとって、喫煙が最も大きな健康阻害因子であることがわかりました。
 まず何が日本人の健康を阻んでいるか知るために、いくつかの大規模コホート調査の成績を紹介します。

1.NIPPON DATA 801,2,3
日本全国の30歳以上の約1万名の男女を対象(うち男性約4千名)とした厚生労働省循環器疾患基礎調査の通称です。1980年に始まったこの研究は、血圧、総コレステロール、喫煙習慣、飲酒習慣、BMIなどと病気発生の関連を検討し1993年に中間報告が発表されました。
以下に、喫煙・血圧・コレステロールが心筋梗塞死、脳梗塞死、全死亡にどのように関与していたかを紹介します。

a.心筋梗塞死(高血圧vs喫煙)(図1)
収縮期血圧120mmHg未満の階層に比べ、全男性人口の12%を占める160mmHg台群では2.01倍、3%を占める180mmHg以上群では2.66倍心筋梗塞死リスクが増加していました。一方、全男性人口の39%を占める21本/日未満喫煙群は1.56倍、 25%を占める21本/日以上の喫煙者は4.25倍心筋梗塞死しやすくなっていました。このコホートの喫煙者(21本以上/日)は重症高血圧者よりも心筋梗塞で死ぬ危険が大きかったことになります。

b. 脳梗塞死(高血圧vs喫煙)(図2)
脳梗塞死リスクは、収縮期血圧160mmHg以上群の3〜4倍に対して、喫煙群禁煙群ともにおよそ3倍でした。もし喫煙がなくなれば、働き盛り男性の脳梗塞死の3分の2は予防できる可能性があります。

c. 心筋梗塞死(コレステロールvs喫煙)(図3)
総コレステロール値が260mg/dl以上で心筋梗塞死リスクが3倍をこえていました。しかし260mg/dl以上の階層は全成人男性人口のわずか数%です。一方1日21本以上の喫煙者では総コレステロールが300mg/dl前後に匹敵する4倍以上の心筋梗塞死リスクが観察されました。心筋梗塞死リスクについて、喫煙はコレステロール300mg/dlで放置しているのと同じでした。

d. 全死亡(高血圧vs喫煙)(図4)
脳梗塞と心筋梗塞を合計しても全男性死亡の7分の1を占めるに過ぎません。それぞれの危険因子が全死亡にどれほど関与しているかが保健上最も重要です。このコホートでコレステロールは心筋梗塞死のリスクを上げる以外に死亡への寄与はありませんでした。死亡へのインパクトが大きい高血圧4とタバコについて全死亡への寄与度をみてみましょう。グラフは、血圧階層別、喫煙状態別の全死亡リスクを年間10万人あたりの死亡数として表したものです。1980年から1994年の間に死亡した30歳以上の男性にとって、高血圧と喫煙は同じ程度の全死亡リスクとなっていました。このコホートでは、タバコを吸うのは高血圧を治療せず放置しているのと同じくらい危険だったということになります。

2.茨城県健診受診者生命予後追跡事業5
NIPPON DATA 80の13年後に、喫煙習慣、飲酒、血圧、総コレステロール、HDLコレステロール、BMI、血糖、クレアチニン、尿蛋白、GOT、GPT等の健診項目と死亡との関連を調べるために約10万名の茨城県民(うち男性3万2千名)を10年追跡するコホート調査が開始されました。この調査は26年前に開始されたNIPPON DATA 80よりも現在の日本の状況をよく反映していると考えられます。
 図5は40〜64歳男性の全死亡リスクと様々な健康危険因子の関連を示しています。NIPPON DATA 80と一番大きく違う点は、喫煙が高血圧を2倍上回る全死亡率をもたらしていることです。コレステロールやBMIが増えても全死亡率が増えていないことも注目されます。
それぞれの健康危険因子を抱えた人数に危険度を掛けて、各々の危険因子が原因となった死亡者の比率(人口寄与割合)を計算すると、茨城県ではタバコが男性死亡の24%の原因となっており、11%の高血圧を大きくしのぐ最大の死亡原因であることがわかりました(図6)。
以上から、この集団で、喫煙は個人レベルでも社会全体のレベルでも、修正可能な死亡原因として最大であることがわかりました。

3.厚生労働省多目的コホート研究6
 喫煙・飲酒・食事・運動・肥満度などの生活習慣と病気との関連を明らかにするために、全国11保健所と国立がんセンター、国立循環器病センターなどが参加する厚生労働省がん研究助成金による指定研究班「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」として、全国各地の40〜64歳男女約9万名が1990年から2001年まで追跡調査されました。
 このコホートの喫煙男性の全死亡の相対リスクは非喫煙男性に比べ1.55倍、循環器系疾患死の相対リスクは1.41倍と有意に増加していました。これは茨城調査に近い結果です。ちなみに女性でもそれぞれ1.89 倍、2.72倍でした(有意)。
また全男性ガンの29%、喫煙男性ガンの39%は喫煙により発生しており、もし完全に喫煙がなくなれば、年間9万人のガン発生が予防できることがわかりました。
このコホートでBMI27〜30の男性は1.38倍、30以上では1.97倍全死亡率が高くなっていましたが、人口比率はそれぞれ9%、2%にすぎないため、BMI27以上の肥満による超過死亡は全死亡の3.6%にとどまっていました。

4.宮城コホート研究7
40〜64歳の宮城県住民(男1万9千名、女 1万7千名) を1990年から11年追跡し、喫煙、学歴、結婚状態、高血圧・糖尿病などの既往歴、飲酒、BMI、運動習慣、食事因子などの生活習慣と死亡の関連が調査されました。
非喫煙者と比較して喫煙男性は1.71倍 、喫煙女性は1.44倍と有意に死亡リスクが増加しており、前記2調査と合致する結果でした。このコホートの喫煙男性死亡の42%、喫煙女性死亡の31%は喫煙に起因していました。
 一方、このコホートでBMIと総死亡について検討したところ、男性では、18.5未満という低BMI群で有意に死亡が増加(2.06倍)していましたが、高BMI群で総死亡増加はみられませんでした8。

5.山形県基本健康診査予後研究9
 喫煙・飲酒・血圧・総コレステロール・MBI・尿糖・GOTと死亡の関連を検討するために、山形県川西町33歳以上住民5千8百名(男性2400名)を1988年から2000年まで追跡した調査です。
喫煙・低BMI・高血圧は男性死亡を有意に増加させていました。しかし高コレステロール・飲酒は死亡率を増やしていませんでした。

6.コホート調査のまとめ
 表1に5コホート調査の結果をまとめました。中年男性の全死亡と喫煙の関連を検討した5調査すべてで喫煙が有意に全死亡を増やしていました。同じく高血圧との関連については、4調査すべてで有意な結果が出ました。しかし高BMIと全死亡に有意な関連を見出した調査は5件中1件にとどまり、高コレステロール血症については、1件が全死亡率の有意な低下、他の2件では関連なしの結果でした。したがって今の日本の中年男性の運命はタバコと血圧が握っていると言えます。


U.健診・人間ドック:最も生死に関係するタバコにノータッチ

1.今の健診・人間ドックは喫煙者に「要禁煙」と通知できない
現行の健診・人間ドックはタバコが働き盛りの中年男性の死亡にもっとも関係すると言うエビデンスにふさわしい仕事をしているでしょうか?残念ながらそうではありません。「人間ドック」と「タバコ」をキーワードにしてインターネット検索すると、人間ドックを受けて異常なしと言われ、ホッとしてタバコを吸ったという文章がたくさん見つかります。事実、健診・人間ドックでは、いくらタバコを吸っていても、他の項目が異常なしなら、「要治療」のレッドカードも「要経過観察」のイエローカードも出されません。なぜなら、法定健診・人間ドック10の検診項目に「喫煙」が入っていないからです(表2)。たとえ1日100本のヘビースモーカーでも、ほかの検診項目が正常なら「異常なし」という「健康証明書」をもらえるのが現在の健診・人間ドックの姿です。タバコが日本人にとって最大の健康危険因子のひとつであることがわかったいま、「喫煙」を検診項目から外したままで健診・人間ドックを続けることは、一般市民に誤った情報を伝える続けることになります。

2.喫煙者は健診・人間ドックを受けても救命されない
ところで、タバコをやめずに健診・人間ドックを受けた人は、病気の早期発見や生活習慣の修正を通じて、その後の死亡率が減るでしょうか?この点について、日本の某生命保険会社のデータを解析した論文が2002年に発表されています。20歳から80歳までの生命保険加入者約72万名を平均32ヶ月追跡し、死亡者について最近2年以内の健診、喫煙習慣の有無と死亡率の関係を検討しました11。その結果、喫煙者は健診の有無による死亡率に差がありませんでした。いっぽう非喫煙者の死亡リスクは健診なし群でも0.67、健診あり群で0.32と喫煙者の3分の1まで有意に低下していました(図7)。この調査はタバコを吸う者が健診をうけても命が救われない証拠のひとつです。

3.健診・人間ドックが禁煙不要のメッセージを出している
現在の人間ドック・健診業界は自らの事業の目的をどのように説明しているのでしょうか。例えば、聖路加国際病院予防医療センターは「人間ドックの目的の1つは、近い将来病気を引き起こすと考えられる検査の異常や生活習慣の問題点を明らかにすると共にこれらを改善し、病気の予防をする、つまり、発症する前に病気の芽を摘んでしまうことです(同センターHP:http://dock.luke.or.jp/dock/intro.html)」としています。一般の方々はそのような言葉に期待して人間ドックを受けます。もしヘビースモーカーが「今回の人間ドックでは異常なし」という通知を受け取ったなら、「タバコのことはいわれなかったから禁煙する必要はない」と誤解するのはあたりまえでしょう。
喫煙の害がしっかり認識されていないことは、一般市民を対象とした意識調査で明らかになっています。「生活習慣病に関する世論調査(内閣府大臣官房政府広報室、2000年2月)」によれば、高血圧・高脂血症・糖尿病を非常に怖い病気と答えた人の割合は、それぞれ52.5% 、37.6%、71.8%でした。いっぽうタバコが健康に与える影響について「とても気になる」と答えた者は30%でした(2003年国民健康・栄養調査結果の概要)。これは現在の日本人男性の全死亡リスクを増やしていない高脂血症にさえ及ばない比率です。この結果は、日本人男性の早死原因のトップがタバコであるというエビデンスが国民に伝わっていないことを示すものです。その原因の一端は、健診・人間ドックが「タバコ」を外していることにあるというのが私の考えです。

4.人間ドック・健診を受けた喫煙者を「要(禁煙)治療」と判定し、強力な禁煙勧奨を実行すべきである
 喫煙は喫煙者自身の半数近くを早死させる重大な健康リスクであるとともに、周囲の非喫煙者の一割の命を奪う可能性のある環境汚染因子でもあります。喫煙者に正確な情報を伝えて、禁煙を強く勧奨することは、喫煙者の正しい情報を知る権利と、正しい情報に基づいて生活習慣の修正を選択する権利という二つの人権を尊重する措置にほかなりません。正しい情報を知り、禁煙を選択しようとしても、ニコチン依存のために、たやすく禁煙できる喫煙者は多くありません。この意味でニコチン依存症の薬物治療が保険給付されたことは時宜にかなうものです。喫煙を健診項目に組み込むことで初めてニコチン依存症の保険給付化が生きてくると言えます。
人間ドック・健診受診→「要禁煙治療」と判定→禁煙外来受診→ニコチン依存症保険治療実施→禁煙成功→人間ドック・健診受診→「異常なし」というサイクルが成立することにより、わが国の健康寿命延伸が大幅に勝ち取られることになるでしょう。

5.エビデンスは最も積極的な喫煙率低下目標の必要性を示している
 最近の日本人男性の死亡因子に関する利用可能な論文をレビューした結果、喫煙対策を最優先課題とする必要があることがわかりました。この最優先課題を差し置いてメタボリック症候群対策を重点とする厚生労働省の姿勢には大いに疑問を感じます。なぜなら、医療専門家や国民を納得させるに足る証拠に基づいた政策説明がなされていないからです。
 喫煙という最大の危険因子を喫煙者にこの先何年も背負わせたままでいいはずがありません。喫煙率低減目標については男性25%以下、女性5%以下という最も積極的な目標を掲げることが必要であると考えます。

【引用文献】

1)第5次循環器疾患基礎調査
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-kou18/data12/junkan-h12-4.pdf
2)健康日本21各論 循環器疾患 別添資料 表12-1  
http://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/about/kakuron/8_junkanki/hyo.html
3)Ueshima H et al. :Cigarette smoking as a risk factor for stroke death in Japan: NIPPON DATA80. Stroke. 35:1836-41,2004.
4)Iida M et al. Impact of elevated blood pressure on mortality from all causes, cardiovascular diseases, heart disease and stroke among Japanese: 14 year follow-up of randomly selected population from Japanese -- Nippon data 80. J Hum Hypertens. 17:851-7,2003.
5)健診受診者生命予後追跡調査事業報告書.2005年10月.茨城県立健康プラザ.
http://www.hsc-i.jp/hsc/material/seimeiyogo/h17.pdf
6)厚生労働省研究班による多目的コホート研究ホームページ
http://epi.ncc.go.jp/jphc/index.html
7)Hozawa A, Ohkubo T, Yamaguchi J,et al.: Cigarette smoking and mortality in Japan: the Miyagi Cohort Study. J Epidemiol. 14 Suppl 1:S12-7,2004.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/14/Supplement_I/S12/_pdf
8)Kuriyama S, Ohmori K, Miura.et al.: Body mass index and mortality in Japan: the Miyagi Cohort Study. J Epidemiol. 14 Suppl 1:S33-8,2004.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/14/Supplement_I/S33/_pdf
9)飯田理絵他.基本健康診査受診者の生命予後に関する研究.山形医学.20:59-68,2002.
http://www.lib.yamagata-u.ac.jp/kiyou/kiyoum/kiyoum-20-2/image/kiyoum-20-2-059to068.pdf
10)予防医学委員会報告(人間ドックの現況)平成15年3月現在.社団法人日本病院会.
http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20030800_01.pdf
11)Suka M, Sugimori H, Yoshida K:The Impacts of Health Examinations and Smoking on Disease Mortality Risk in Japan: a Longitudinal Cohort of 720,611 Japanese Life Insured Persons.Environ Health Prev Med.7:169–172, 2002.


図,表は,ここに表示できないの,下記にリンク掲載しています。
http://www.eonet.ne.jp/~tobaccofree/matsuzakizu0608.pdf


〔ツリー構成〕

【33】 「健康日本21中間評価報告書(案)」の公表−喫煙率低下の数値目標−とパブコメ募集 2006/8/18(金)18:18 smokefree (4308)
┣【34】 re(1):喫煙率の大幅低下の数値目標等のパブコメ賛同意見(無煙環境) 2006/8/24(木)14:45 smokefree (2500)
┣【35】 re(1):タバコは働き盛り日本人男性の最大の早死因子−人間ドック・健診では喫煙者に「要禁煙治療」と通知.. 2006/8/28(月)23:19 matsuzaki (12840)
┣【36】 re(1):成人喫煙率低下の数値目標を男性25%、女性5%とすべきである 2006/9/5(火)23:00 日本禁煙学会 (95)
┣【38】 re(1):喫煙率の大幅低下の数値目標等のパブコメ賛同意見(たばこれす) 2006/9/7(木)17:41 たばこれす (2503)
┣【43】 喫煙率低下の数値目標−賛同多数ながら政府は再び断念 2006/12/27(水)19:09 smokefree (210)
┣【64】 喫煙率低減の数値目標のパブコメ結果と議事録2006/12/15,26、JTの介入妨害報道 2007/4/8(日)15:40 smokefree (1065)

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